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「笑顔だね」とジョンさん。「…それは、笑顔」と溝口さん。

 

―― 塩崎監督の魅力って、何でしょうか?

 

そう尋ねたとき、プロデューサーのジョン・ウイリアムさんも溝口潔さんも同じ答えを口にしました。確かに過密スケジュールの中で、監督の笑顔は印象的で、時間に追われて殺伐としがちな現場に、穏やかな雰囲気をもたらしていました。
監督といえば、多くの人を統べ、采配をふるう大任。若くしてそれを任される人が、様々な才に恵まれているのは自明の理です。それをあえて「笑顔」が魅力だと皆に言わせる監督。その視線の独特の温かさは、自らが脚本を書き、監督した映画「茜色の約束」にも良く出ています。

 

「大和郡山の忘れられた金魚の伝説が、町に奇跡を起こす」。この、ある意味奇想天外なストーリーの”種”は、監督が高校卒業までを過ごした大和郡山での経験から想を得たとのこと。金魚の町で知られる大和郡山ですが、県最大の工業地域でもあり、かつて出稼ぎの移民が多く住んでいた町でもありました。
「この街に住んでいたころ、そんな移民の友人やその家族が、普通に身近にいて……」当時を振り返って監督は話してくれます。「彼らは他の友人と少しも変わらない。でも実は故国を離れて日本で暮らすマイノリティの人たちで。ある日、見知った彼らがふっと居なくなる。そんなとき、彼らの置かれていた立場を改めて思うことになったかな」
やがて監督自身が高校を卒業し、単身アメリカへ渡ったとき、初めて自らも”マイノリティであること”を強く意識することに。そのときの実感と少年時代の記憶が発酵して、この映画の核となりました。

 

「茜色の約束」を彩るのはサンバのリズムです。生きていく中での刹那の喜びを爆発的に表現するのがサンバですが、それを渾身異国の地で踊るマイノリティの人々へ、監督の視線は柔らかく注がれていきます。
「子供のころ、こんなに身近なのに、移民の存在を知らない子たちがいて、それが本当に不思議だった」と当時の自分を振り返る監督。見ようとしない人には一生見えないものを、常にじっと見続けてきた……その積み重ねが「笑顔」と一言に象徴される魅力につながってきたのでしょう。
アメリカ留学時代、監督が映画を観に行ったときのこと。ストーリーが展開するスクリーンではなく、それを食い入るように見続ける「観客」のほうを見て「これだ!」と思ったとか。「監督誕生」の秘話?ですが、あくまで注がれるまなざしが、人に向けられているのが興味深いエピソードです。

 

お話をうかがう中で、花子役の大出菜々子ちゃんを「とても上品な子」だと監督が評したことが印象的でした。11歳の女の子を評価するのには、あまり一般的な言葉ではありません。人は自分にないものを他人の中に見つけることはなく、そのことを大切なことと考えるからこそ目につくもの。「上品」であるとは「自分がなすべきことを、知っている」ということですが、確かに塩崎監督の中にもそういう「上品」さが備わっていて、これから自分が撮っていくべき作品が(それは意識されている、いないにかかわらず)心の中にすでに「在る」 

 

―― その確かさが監督の「笑顔」につながっている気がします。

 

「作品が出来上がる過程や、作り手の思いなんてどうでもいいことなんです。観客の皆さんがこの映画を楽しんでくだされば……」。映画はスクリーンに映ったことが全てだから、とまさに柔和な「笑顔」をむける監督ですが、さあ、この「茜色の約束」で、これから長く続く監督業へのスタートが切られました。
一人の監督がゆっくり豊かになって、作品を一つ一つ生み出していく。今回私たちはこの先、ずっとその過程を観ていくという、大きな楽しみも得たことになります。「茜色の約束 ~ サンバ do 金魚 ~」いよいよ公開間近です。

(文・写真 取田智子)

 

「たけし(リカルド役)の憧れは祥平なんだよ」とは、ジョンさんからの情報。監督と役者でもあり、兄と弟のようでもあり。

 

「有言実行型」「実はラテンの血が流れている」とは高校時代の同級生の貴重な証言?笑顔の裏の「騒ぐ血」に注目、です。